プロツールスが入って一番変ったのが、
音を視覚化して作業できるようになったことです。
私がディレクターになりたてのころに
こんなことがありました。
ミックスを終えて、マスタリングに行ったときのことです。
実は私、このミックスがあまり気に入っていませんでした。
声のバランスがオケに対してちいさくて、
あのもうすこし、声が前に出ていたらいいのにと、
内心不満に思っていたミックスだったからです。
ミックスダウンという作業は、エンジニアとアシスタントエンジニアを雇って、
1時間3万円くらいのスタジオをレンタルして
最低でも1曲6時間はかけてするので、
再度スタジオを借りてミックスしなおすわけには
簡単にはいかない。
ところがスタジオにいって、驚きました。
マスタリングのエンジニアさんが私にこう聞いたからです。
「声、ちょっとちいさくないですか。なんなら、上げときましょうか」
嬉しい申し出なので、
是非にといって、ボーカルを上げてもらいました。
それで一件落着。
私の不満が一挙に解消したのです。
ちょっと説明しておきます。
レコーディングには三種類の
エンジニアさんが関わります。
まず、レコーディングを仕切り、
サウンドの最終的な責任者であるミキサーと呼ばれる
エンジニアさん。
この人とプロデューサーは夫婦のような関係です。
ひとつのプロジェクトが立ち上がると、
終わるまでずっと一緒のことが多いのです。
個人的にも連絡を密に取り、
どちらかが結婚するということになれば、
お世話するような関係になることが多いです。
レコーディングの時、マイク位置の調整から配線、
テープレコーダーやコンピュータを操って実際の作業を手伝う、
アシスタントエンジニア。
これはスタジオの提供によります。
スタジオ料の一部としてその労働が請求され、
ほとんどの場合、エンジニアさんが指名することが多いです。
ただ、レコーディングの目的によって
スタジオが変ればアシスタントは変り、
その都度その都度のキャスティングになります。
最後にマスタリングエンジニア。
これは、CDやレコードを焼く基本となるフォーマットを
作ってくれるエンジニアで、作品の最終形に仕上げる仕事になります。
ビクターやコロンビアなど老舗のレコード会社には
専門のマスタリングエンジニアがいますが、
通常は外部のマスタリングの専門家を雇うことが多く、
プロデューサーたちは、
ひとつの作品に一回だけ顔をあわせる存在となります。
このとき、マスタリングエンジニアが使ったのがEQ。
出来上がった作品の声の帯域周辺の音量をあげたのですね。
こんなことができる機材があったのかと、
本当に本当に驚いたものです。
プロツールスが出来るまでは、このEQをいじるという作業は、
耳で聞いて調整するので、専門職として成立し、
プロデューサーがどうのこうのいうようなレベルの話ではありませんでした。
わからない領域だったのです。
ところがプロツールスが出来ると、
その中にEQというのがソフトで入っていて、
誰でも触れるようになりました。
低いところをカットしたり、高いところをより大きくしたりが
目で見てどれくらい上げたのか
下げたのかわかるようになったのです。
これによって、一般の人でも、
ボリュームをいじる感覚で
各帯域をいじれるようになったというわけです。
次回は、プロツールスの飛び道具、
ディレイについて話ますね。
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この曲って、くるくるまわっているイメージ、
ないですか?
はじまったときは明快だけれど、
途中からどこが頭でどこが終わりかわからないような。
曖昧模糊とした感じ。
それが、この曲の魅力です。
でも、一体、どうやったらそんな、
あいまいな感じが出るのでしょうか。
それで、この曲を耳コピーしてみることにしました。
この曲は、Ebで書かれています。
最初のAセクションは
Eb→Cm→Ab→Bbの繰り返しです。
それを4回繰り返して、Bセクションに移ります。
これは8小節の繰り返しなので王道ですね。
Bセクションは転調します。
いきなりですね。
これは王道ではないです。
でも、転調は2000年からの、作曲のテクニックなので、
作曲を勉強しているこの「ボーカリストの知恵袋」の読者諸君は、
この転調の仕方を覚えておいてほしいものです。
転調先は、♭5つのGb。
耳で採ってみると、Abm→Db→Gbと展開して、
メロディアスなBセクションを作ります。
この転調に気付いた人、作曲の才能があります。
気付かなかった人、もうちょっと、転調について、
敏感にならなくてはね。
このBセクションの最後が問題です。
Bセクションが終わったあと、
再度Aセクションに戻りますが、
その戻り方にテクニックがあります。
コード的には最後はB→Db7といって、元のキー、
つまりEbのAセクションに戻っています。
実はGbのキーでB→Db7といけば、
ⅳ→Ⅴ→という流れなので、その先はⅠが必然。
コード的にいうと、Gbに戻るのが必然なのです。
ところがGIOVANCAはそうはせず、
元のキーのⅠに戻ります。
つまり、B→Db7→Ebというながれ。
キーをCにして流れを分かりやすくすれば、
F→G→Cという解決か、
F→G→Aという解決をいったりきたりするわけです。

元から、転調を含んでいる作品作りなのですね。
この曲のくるくる回っているような、
どこが最初でどこが終わりかわからないイメージには、
こうした音楽的な仕掛けがあったわけです。
おそるべきプロデューサー、
ベニー・シングスですね。
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プロツールスで一番驚いたのは、
切り貼りです。
COPY& pasteとでもいうとわかりやすいでしょうか。
すでに書かれた書類をコピーして、
他の場所に貼り付ける。
コンピュータに興味のある人なら、
初歩的なテクニックですねよ。
それがレコーディングの現場となると、
かなりイメージが変ります。
例えばさきほどレコーディングした
ドラムの3小節目がよたっていた。
同じフレーズの4小節目は
ぴったり叩いていた。
何とかして4小節目をコピーして
3小節目に貼り付けたい。
そう思うのは人情ですが、
それまでのレコーディングの場面では、
時間的にいいますと、80年代のはじめまでは、
そんなことは不可能でした。
もちろん、レコーディングしていると、
そうした熱望にかられることは多々ありました。
だって、3小節目はよたっているんだから。
よたっているという表現が難しければ、
上手に叩けていないということになります。
そんなもの、レコードとして世に出すのは、
担当プロデューサーの恥、って感じです。
で、どうしていたかというと、
24チャンネルのマルチトラックをもう一台調達して、
(これにはかなりの金額がかかります。たぶん、1時間1万5千円とか。
それでもドラマーを再度呼んでレコーディングするよりは、
リーズナブルな価格となるのです)
そこにドラムの4小節目をコピーして、
(ドラムは最低10チャンネルは使います。
BD、SNEA,TOM*2,HH*2,SYMBAL*2、
それに、アンビエントとして2チャン。
これで、10チャンネルくらいになりました。
当然、それくらいかかるし、レコーディングの中で
ドラムさえきちんと録れていれば、
いい音に聞こえるものなのです)
再度、それを4小節目にコピーしなおします。
何て面倒なことをしていたんだ。
今のテクノロジーで育った方は、
そう言うでしょう。
そういえば、こんなことも思い出しました。
あれは、ジャニーズの仕事で、アレンジが萩田光雄さんでした。
萩田さんといえば、山口百恵さんの「Play back partⅡ」とか、
「横須賀ストーリー」とかを
アレンジしていた方ですが、
彼が、スタジオで、こう言ったのです。
「最初のAセクションはいいんだけど、
2コーラスのAセクションはノリがよくないから、
マルチを切ろう。切って貼り付けよう」
その言葉に、当時のレコーディングエンジニアをしていた方は
凍りつきました。
マルチテープを切るというは、
失敗したら全部パーみたいなことなので、
責任重大、エンジニアの沽券に関わることになるわけです。
しかし、そのエンジニアは冷静を装って
(だって、マルチなんか切れませんといえないものね、
当時の売れっ子アレンジャーに)
マルチに鋏(はさみ)をいれていました。
その手が、かすかに震えていたのを、
私は覚えています。
こんなことは、夢のまた夢。
今なら、簡単にコピーできます。
切れます。
失敗したら、UNDOすればいいだけです。
それをやってのけたシステムが、
プロツールです。
最近、わたしがスタジオに行くと、
アシスタントエンジニアの方が、こういいます。
「大丈夫ですよ。歌は、全部レコーディングしていますから、
悪いところがあったら、僕にいってください。コピーして貼り付けますから。
簡単ですから」
その言葉、10年前に聞かせてほしかった。
あのときのエンジニアの指の振るえを、
君に見せたかった。
いい時代に生まれたねと。
次回は、ミックスについて書きましょう。
プロツールスが入って、それまでのミックスと何が変ったのか、
参考になることがあると思います。
上記の写真は、山口百恵さんのベストです。
萩田さんのアレンジ作品がたくさん入っているので、
興味のある方は、参考にしてください。本当にすばらしい才能ですよ。
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MTVをみなさんは見てますか?
よくレコーディングスタジオなどで流れていたので、
どうしても自宅やわたしのスクールで見たいと思い、
JCOMと契約したのが5年前。
今では毎日欠かさず見ることが出来ます。
その中でもアメリカのヒットチャートを特集した
番組が私のもっとも好きなもの。
最新の音楽が流れてくるので、勉強になります。
最近の私のお気に入りは、
GIOVANCAのON MY WAY
これはやられました。
最初、GIOVANCAの声を聞いて、ダイアナ・ロスの
甘ったるい声に似てるなと感心したものです。
最近はパワフルなボーカリストは結構出ているけれど、
ダイアナ・ロス系の甘いボーカリストはあまりお目にかかれない。
そういえば、ダイアナ・ロスって、知っていますか?
去年、映画「dream girls」は、
モータウンレコードがどうして出来たのかということと、
その中のスター、シュープリームスと
シュープリームスのスター、ダイアナ・ロスの話でしたから、
記憶に残っている方も多いと思います。
そういえば映画「dream girls」に出てきたメンバーは
どれも基本的にはパワフルなボーカリストばかりでしたね。
ダイアナ・ロス役のビヨンセも基本的にはパワフルなボーカリスト。
どうしてシュガー・ボイスが出てこないのかと思っていたら、出てきました。
GIOVANCA、いいですね。
軽やかです。
あまり、シリアスでなくて都会的。
重苦しいゴスペル色がないのがよろしい。
メロディにバート・バカラック風なテイストを感じます。
映像を見て驚いたのは、モデルさんのようにスタイルのよい
黒人の女性でした。
アメリカの黒人の女性は重くなっているのが普通なのに、
ずいぶんとおしゃれな人が出てきたなという感じ。
是非、聞いてみてください。
次回は、このGIOVANCAが何故、
オシャレなのかということを分析しますね。
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AdeleのChasing the pavementを注意深く聴いてゆくと、
頭のAメロのについているコードは
Cm→Gm/Bb→Abmaj7→G7となっています。
同じ1番のAセクションの繰り返し部分を、
聴いてみましょう。
通常ならこれのcopy&pasteでよいはず。
ですが、違っているのです。
実際に音をとってみましょう。
Eb→Gm/D→Cm7→Gm/Bbとなっています。
これはどういうことかといいますと、
メロディが同じなのに、最初のAセクションはマイナーで捉え、
繰り返されたAセクションはメジャーで
捉えているということです。
イメージとしては一人の人間なのに、あるパーティで衣装替えして
二度登場するのに似ています。
これによってメロディの繰り返しは単調になりやすいのを
回避しているのです。
ただし、同じメロディにメジャーとマイナーの
コードをつけているわけですから、
最初がちょっと悲しいイメージ、
繰り返した部分は明るいイメージとなります。
リズムも変化しているせいで、
単調にならずに仕上がっています。
日本では同じメロディに違ったコードを、
それもメジャーとマイナーのコード付けされるというのは
あまり聞いたことのない例です。
もし誰かがしたら、認識しにくいので
同じコードでといわれるかな。
こんな冒険的なことをしてしまう
Adeleの冒険心に乾杯。
同様の冒険心はメロディにも見られます。
この曲のメロディのほとんどは八分音符で書かれていますが、
途中、5小節目に三連のメロディが現れます。
通常、8ビートで書かれた曲なので
三連のメロディは使いにくいのです。
実際に8ビートの曲に三連をのせてください。
ほら、なかなか難しいでしょう?
しかしこの三連が効果を生んで、アデルの楽曲を魅力的に見せています。
最後に、がんばって聞き取ってほしいのですが、1番のAメロの詩、
I’ve made up my mindの後、
don’t need to think it overの
「over」の部分の歌を聴いてみてください。
ちょっと変じゃないですか。
わからなかったら何度でも聴いてみてください。
この「over」、オートチューンがかかっています。
前回私が書いたスティービー・ホアン君と同じ機材です。
何か節回しのようにも聞こえますが、これは機械でいじった跡。
積極的で趣味のよい使い方ですね。
今、UKではこうして声に機械をかけて
聴かせるテクニックが主流なのでしょう。
こうしたテクニックがあるから、
UKから目が離せませんね。
